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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)156号 判決 1978年7月13日

東京都台東区谷中二丁目八番一〇号

原告

高昌娥

右訴訟代理人弁護士

松山正

有賀功

安藤寿朗

右訴訟復代理人弁護士

大山美智子

東京都台東区東上野五丁目五番一五号

被告

下谷税務署長 飯田庄左衛門

右指定代理人

布村重成

奥原満雄

棚橋勉

太田栄一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が原告の昭和四三年分所得税について昭和四七年二月二六日付でした更正処分(ただし、異議申立てに対する決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額一四四六万五九七七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、異議申立てに対する決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、パチンコ店、喫茶店等を経営する者であるが、被告に対し昭和四三年分の所得税について次表のとおり確定申告をしたところ、同表記載の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたので、これに対し同表記載の経緯で異議申立て、審査請求をしたところ、右各処分は同表記載のとおり一部取り消された(以下、右一部取消後の各処分を一括して「本件更正処分」という。)

2  しかしながら、本件更正処分は、原告の所得を過大に認定した違法があり、取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和四三年分の総所得金額は次のとおりであり、その金額の範囲内でされた本件更正処分は適法である。

(一) 事業所得の金額 三六〇〇万〇七七七円

(二) 雑所得の金額 一万七六〇〇円

(三) 合 計 三六〇一万八三七七円

2  右事業所得の金額の算出根拠は次のとおりである。

(一) 原告は、実額によって所得を計算できる商業帳簿の備え付け、その他の資料の記録及び保存をしていなかったため、実額による所得の計算ができなかったので、被告は、いわゆる資産増減法により次のとおりその事業所得の金額を推計した。

(二) 原告の昭和四三年一月一日現在及び同年一二月末日現在の資産、負債の額は別表一、二記載のとおりであり、したがって、同年中における純資産増加額は別表三記載のとおりとなるから、右増加額三六〇〇万〇七七七円をもって原告の昭和四三年分の事業所得金額と推計したものである。なお、別表二の負債の部のうち借入金の内訳は別表四記載のとおりであって、それ以外に後記原告主張のような借入金は存在しない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1のうち、(二)(雑所得の金額)は認めるが、その余は争う。

2  同2の(一)は認める。同2の(二)のうち昭和四三年の期首、期末における原告の資産、負債の額が借入金の期末時の額の点を除き別表一、二記載のとおりであることは認めるが、同年中における財産の増加額、事業所得金額は争う。

3  原告には、被告の主張する別表四の借入金の外に、次に述べるとおり二一五〇万円の借入金があり、期末時における借入金の額は合計五二四五万円であった。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第六号証、第七号証の一、二

2  証人高善旭、同金福子、同松岡弘武、同李桂花、同泰君興、同宋斗満の各証言、原告本人尋問の結果

3  乙第五号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二ないし第五号証

2  証人佐久間敬長の証言

3  甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1並びに被告の主張1の(二)(雑所得の金額)、同2の(一)及び同2の(二)のうち期末時の借入金の額を除く期首、期末時の資産、負債の額については、いずれも当事者間に争いがない。

したがって、本件における争点は、昭和四三年期末時において被告主張の借入金三〇九五万円の外に原告が主張するような二一五〇万円の借入金が存在するか否かに帰着するので、以下、この点について検討することとする。

二  原告は、昭和四三年中に金福子外六名から合計二一五〇万円を借り入れたと主張し、証人泰君興及び原告本人は、おおむね右主張にそう供述をしており、また、証人金福子、同松岡弘武、同李桂花、同高善旭も、同人らが原告に対しそれぞれ原告主張どおりの金員を貸し付けた旨供述している。

しかしながら、

(一)  右各供述をみると、本件において貸主であるとされている者は、いずれも原告との間にたやすく多額の金員の貸借をするほどの関係があったものとは認めがたいところ、いずれの貸借においても、貸借に際し借用証等は作成されておらず、弁済期や弁済方法、利息等に関して明確な定めがなく、また、担保の提供も一切ないというのであって、実際の利息の支払すらあいまいであることをも勘案すると、一〇〇万円ないし五〇〇万円という多額の金員の貸借としてはきわめて不自然である(在日韓国人間の特殊事情を強調する証人宋斗満の証言をもってしても右疑念を払拭するに足りない。)

(二)  成立に争いのない乙第三号証及び証人佐久間敬長の証言によれば、原告は、昭和四六年に被告係官の調査を受けた際には、本件借入金のうち高善旭分以外はすべて昭和四二年中の借入れである旨申し立てていたことが認められ、本訴における原告の主張と一致していない。

(三)  証人泰君興、同松岡弘武及び原告本人は、原告の経営するパチンコ店「ひばり会館」の営業成績が他店の進出により振るわず、客寄せのためにパチンコ機械を一年に三回取り替えたり、出玉を多くして出血サービスをせざるを得なかったことから、本件借入金をその赤字の補填ないし運転資金等にあてたものである旨供述しているが、成立に争いのない乙第四号証によれば、「ひばり会館」の昭和四三年中のパチンコ機械の取り替えは二回であって、他年度と比較して特に多いわけではなく、また、成立に争いのない乙第二号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は「ひばり会館」の外にも店舗を有しており、昭和四三年分の所得税確定申告においては一〇〇〇万円余の所得金額を申告し、そのうち「ひばり会館」分としては八五万七二〇〇円の所得を計上していることが認められるのであって、本件借入金の使途に関する前記各供述にも首肯しがたいものがある。

(四)  原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和四三年当時事業の経営が苦しく資金繰りに追われていたといいながら、同年一二月ごろには金融機関からの融資を得ることとして八二五〇万円で渋谷に土地を購入し、更に、同年中に不動産を売却して約一〇〇〇万円で自宅を新築していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上(一)ないし(四)の諸点を考慮すると、本件借入れがある旨の原告の主張にそう前記各供述は、いずれもこれをたやすく措信することができないといわざるを得ず、原告の本件借入金に関する主張は失当である。そうすると、原告の昭和四三年期末時における借入金の額は、被告主張のとおり三〇九五万円と認めるのが相当である。

三  したがって、原告の昭和四三年中における純資産の増加額は、被告主張のとおり三六〇〇万〇七七七円となることは計算上明らかであり、本件において、被告が右増加額をもって原告の同年中における事業所得の金額と推計したことは合理的であるということができる。

そして、右事業所得の金額三六〇〇万〇七七七円に前記当事者間に争いのない雑所得の金額

一万七六〇〇円を加えると、原告の昭和四三年分の総所得金額は三六〇一万八三七七円となるから、そのの金額の範囲内でされた本件更正処分は適法である。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 中根勝士 裁判官 佐藤久夫)

別表

一 資産の部

二 負債の部

三 純資産増加額

(注) 期首元入金は、昭和四三年一月一日現在の資産合計から、昭和四三年一月一日現在の負債合計を差し引いた額である。

四 借入金の内訳

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